最近では、SNSや広告などで「マウスピース矯正」という言葉をよく目にするようになりました。透明で目立ちにくく、通院の手間も少ないということで、大学生や20代の方を中心に人気が高まっています。
一方で、歯科医院で「マウスピース矯正は難しいかもしれません」と言われ、不安やあきらめを感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際のところ、マウスピース矯正はどんな歯並びにも対応できるわけではなく、歯並びや噛み合わせによっては向いていない場合もあります。
この記事では、マウスピース矯正が「できない」と言われる主な理由と、その際に考えられる他の選択肢について丁寧に解説します。ご自身の歯並びに合った治療方法を見つけるための参考になれば幸いです。
目次
マウスピース矯正とは?まずは基本をおさらい
マウスピース矯正とは、透明のマウスピース(アライナー)を使って、少しずつ歯を動かしていく矯正方法です。数週間ごとに新しいマウスピースに交換しながら、理想の歯並びに近づけていきます。
ワイヤー矯正のように金属の装置をつける必要がないため、見た目が自然で、周りの人にも気づかれにくいのが特徴です。また、食事や歯みがきのときには取り外せるため、衛生的に保ちやすいというメリットもあります。
ただし、マウスピース矯正はすべての歯並びに適しているわけではありません。歯を動かす力の仕組みや方向に限界があるため、歯並びや骨格の状態によっては、十分な効果が得られない場合があります。
次の章では、実際にマウスピース矯正が「難しい」と判断される代表的なケースを、わかりやすくご紹介します。
マウスピース矯正ができない例

マウスピース矯正はとても便利で人気のある方法ですが、すべての人に適しているわけではありません。歯の状態や噛み合わせ、生活スタイルなどによっては、マウスピース矯正ではうまく歯が動かない場合があります。
この章では、マウスピース矯正が「難しい」とされる代表的なケースを取り上げてご紹介します。
① 歯並びの乱れが大きい場合(ガタガタ・出っ歯・受け口など)
歯が大きく重なっていたり、前に強く出ている・後ろに引っ込んでいるといった歯の移動距離が大きい症例では、マウスピース矯正だけでは十分な力を加えにくく、思った通りに歯が動かないことがあります。
マウスピース矯正は、薄い樹脂のアライナーが「面」で歯を押して動かす仕組みです。そのため、歯の角度を細かく調整したり、ねじれを直したりするような複雑な動きは苦手です。歯を1本ずつしっかり回転させたり、上下方向に大きく動かすといった操作は、ワイヤー矯正のように「点で力をかける装置」のほうが正確に対応できます。
また、見た目の歯並びだけでなく、歯の根の向きや、骨の厚み・位置関係も関係しています。これらが複雑に組み合わさっている場合、マウスピースでの調整が難しく、理想的な位置まで歯を動かせないことがあるのです。
そのため、歯の重なりが強い「叢生(そうせい)」や、顎の骨格に原因がある「出っ歯」「受け口」などのケースでは、ワイヤー矯正や、ワイヤーとマウスピースを併用するハイブリッド矯正が選ばれることもあります。
② 顎の骨格にズレがある場合
歯並びの乱れは、必ずしも歯だけの問題とは限りません。上あごと下あごの位置関係にズレがある「骨格性の不正咬合(ふせいこうごう)」では、歯の位置をいくら整えても、顎のバランス自体が原因のままなので、見た目や噛み合わせが安定しにくくなります。
たとえば、下あごが前に出ている「受け口」や、上あごが前に出ている「出っ歯」などの症状は、歯の傾きではなく顎の骨格そのものの位置や大きさが関係していることが多いです。
マウスピース矯正は、歯1本ずつの位置を動かすことは得意ですが、顎の位置や骨格の形を変えることはできません。そのため、骨格にズレがある場合は、歯だけを動かしても見た目が不自然になったり、噛み合わせが合わなくなることがあります。
このようなケースでは、
- 骨格の位置を整える顎の成長誘導(成長期の場合)
- 噛み合わせを改善するワイヤー矯正
- 必要に応じて顎の外科的治療を併用する
など、他の方法を組み合わせて根本からバランスを整える治療が行われます。
一見するとマウスピース矯正では難しいと思われる症例でも、骨格を考慮した治療計画を立てれば、美しく機能的な噛み合わせに導ける可能性があります。
③ 虫歯や歯ぐきの状態が悪い場合
マウスピース矯正は、健康な歯と歯ぐきがあってこそ行える治療です。虫歯や歯周病が進行している状態では、歯を動かすことで症状が悪化してしまうリスクがあります。
歯を動かすと、周りの骨や歯ぐきも少しずつ変化します。このとき、歯ぐきが炎症を起こしていたり、歯を支える骨が弱っていたりすると、歯を動かす力がうまく伝わらず、歯がぐらつく・痛みが出るといったトラブルが起きることがあります。
また、マウスピース矯正は装着時間が長いため、お口の中がムレやすくなり、虫歯や歯周病のリスクが一時的に高くなることもあります。だからこそ、治療前にしっかりと検査を行い、虫歯の治療やクリーニングを済ませてから始めることが大切です。
「虫歯があるから矯正ができない」というよりも、“矯正を始める準備が必要な段階”と考えるとよいでしょう。お口の環境を整えてから矯正を行うことで、結果的に歯がより健康に、美しく整いやすくなります。
④ マウスピースの装着時間を守れない場合
マウスピース矯正は、1日20時間以上の装着が基本です。これは、ほとんどの時間をマウスピースとともに過ごすということになります。外していられるのは、食事や歯みがきのときなど、ほんの短い時間だけです。
しかし、実際の生活の中では、人との食事が多かったり、長時間の会話が必要だったりと、どうしても装着を忘れてしまう場面が出てくるものです。その時間が少しずつ積み重なると、歯の動きが計画どおりに進まず、治療期間が延びてしまったり、仕上がりにズレが出てしまうことがあります。
マウスピース矯正は、「装置が目立たない」「痛みが少ない」といった利点がある一方で、自分で管理することが前提の治療です。そのため、装着時間をしっかり守ることが難しい方には、固定式のワイヤー矯正や、部分的に動かす方法など、生活に合わせた矯正プランを検討するのがおすすめです。
大切なのは、装置の種類よりも「自分に無理のない方法」を選ぶこと。継続できる治療こそが、結果的に美しい歯並びをつくる近道になります。
⑤ 歯の欠損やブリッジが多い場合
歯を動かすためには、他の歯を支えとして力をかける必要があります。しかし、歯が抜けていたり、ブリッジが多く残っている場合は、動かすための支え(固定源)が不足し、マウスピース矯正の力がうまく伝わらないことがあります。
マウスピース矯正は、歯に均等な圧力をかけて少しずつ移動させる治療です。そのため、支えになる歯が少なかったり、ブリッジで複数の歯がつながって動かせない状態だと、「動かしたい歯だけをコントロールする」ことが難しくなります。
また、歯を失った部分の骨が痩せていたり、歯の根が短くなっている場合も、歯を動かす際の安定性が十分に保てないことがあります。無理に力をかけてしまうと、歯や歯ぐきに負担がかかり、治療後に噛み合わせや見た目が不安定になるリスクもあるのです。
とはいえ、このようなケースでもまったく矯正ができないわけではありません。欠損部分にインプラントを入れて支えを補ったり、動かす範囲を限定した部分矯正を行うことで、できる範囲の改善を目指すことは十分に可能です。
治療前の精密な検査で「どの歯を動かせるか」「どの部分は固定すべきか」を見極めることが、安全で効果的な矯正治療につながります。
このように、マウスピース矯正ができない理由は、見た目の歯並びだけで判断できるものではありません。実際には、歯の根の角度や顎の骨格、噛み合わせのバランスなど、目には見えにくい部分が深く関係しています。
そのため、矯正が向いているかどうかは、レントゲンや3Dスキャンなどを使った精密な検査でしか分からないことも多いです。「見た目が少し気になる程度だから」「自分は軽い方だと思う」といった自己判断ではなく、専門的な診断を受けて、自分に合った治療法を知ることが大切です。
次の章では、なぜこのような制限があるのか「マウスピース矯正ができない理由」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
なぜマウスピース矯正ではできないのか?
マウスピース矯正が向かないケースには、きちんとした理由があります。
単に「難しい症例だから」ではなく、マウスピースという装置の構造や仕組み上の特性が関係しています。ここでは、その理由をもう少し詳しく見ていきましょう。
① マウスピースでかけられる力には限界がある
マウスピース矯正は、薄い透明のアライナーが歯を包み込み、一定の圧力をかけて少しずつ動かしていく治療方法です。しかし、マウスピースは取り外し式であるため、力をかけられる方向や強さに制約があるのが特徴です。
歯を回転させたり、上下方向に大きく動かしたりといった複雑な動きには不向きです。このような細かい調整には、歯1本ずつに力を加えられるワイヤー矯正の方が適しています。
② 骨格や噛み合わせの問題は歯だけでは治せない
歯並びの乱れは、歯の位置だけが原因ではありません。上あご・下あごの骨の形や位置関係が影響していることも多くあります。マウスピース矯正はあくまで「歯の位置」を動かす治療のため、顎の骨格そのものを変化させることはできません。
たとえば、下あごが前に出ている「受け口」や、骨格的に上あごが前に出ている「出っ歯」などの場合は、歯だけを動かしても見た目や噛み合わせのバランスが整いにくいのです。このようなケースでは、顎の位置を整える治療やワイヤー矯正との併用が必要になることもあります。
③ 精密な調整が必要な動きが苦手
ワイヤー矯正では、歯1本1本にかかる力を細かく調整できるのに対し、マウスピース矯正は「歯列全体をまとめて動かす」イメージになります。そのため、前後左右のバランスや噛み合わせの高さをミリ単位で整えるような精密な最終調整は、マウスピース単独では難しいことがあります。
このような理由から、「全体の動きはマウスピース」「最終の仕上げはワイヤー」といったハイブリッド矯正が選ばれるケースもあります。
④ 設計や管理が治療結果を大きく左右する
マウスピース矯正は、どんな装置を使うかよりも、どのように設計し、どのように管理するかが結果を大きく左右します。
治療計画の段階で、歯の動かし方や順序を正確に設定できていないと、マウスピースを何枚重ねても思うように動かず、「予定より期間が長くなる」「かみ合わせがずれる」といった問題につながります。
つまり、マウスピース矯正が難しいのは、装置の限界だけではなく、設計を行う歯科医師の知識と技術に左右される治療でもあるのです。
マウスピース矯正は非常に優れた治療法ですが、「万能な方法」ではありません。どの治療にも得意・不得意があり、自分の歯並びや骨格に合った方法を選ぶことが、納得のいく仕上がりへの第一歩となります。
「できない」と言われたときの選択肢

マウスピース矯正を検討していて「あなたの歯並びでは難しいかもしれません」と言われると、少し落ち込んでしまう方も多いと思います。ですが、それは「もう矯正ができない」という意味ではありません。大切なのは、自分の歯並びに合った方法を見つけることです。
ここでは、いくつかの選択肢をご紹介します。
① ワイヤー矯正との併用(ハイブリッド矯正)
歯の動きを大きく必要とする部分にはワイヤーを使い、その後の微調整や仕上げをマウスピースで行う方法です。
ワイヤー矯正の正確なコントロールと、マウスピース矯正の見た目の自然さを両立できるため、「見た目は気になるけれど、しっかり治したい」という方にも選ばれています。
② 部分矯正という考え方
「全体を矯正するほどではないけれど、前歯の重なりだけ気になる」といった場合には、部分的なマウスピース矯正という選択肢もあります。
動かす範囲をしぼることで負担を抑えつつ、気になる箇所をピンポイントで整えることができます。限られた範囲だからこそ、より自然で手軽に始めやすい方法です。
③ セカンドオピニオンを受けてみる
マウスピース矯正が「できない」と言われたとしても、医院によって診断基準や得意分野が異なることがあります。別の医院で相談すると、「この方法なら対応できます」と提案されるケースも珍しくありません。
治療を受けるかどうかを決める前に、複数の意見を聞いてみることで、自分に本当に合った方法が見えてくることもあります。
マウスピース矯正が難しいと感じても、そこで終わりではありません。むしろ、自分に合う治療方法を見つけるための新しいスタートです。大切なのは、「見た目だけを整える」ことよりも、長く健康で、美しい歯並びを保てる方法を選ぶことです。
まとめ:自分に合った矯正方法を見つけるために
マウスピース矯正は、見た目の自然さや快適さなど、多くの魅力がある治療法です。しかし、すべての人に同じように合うわけではありません。歯の重なり方や骨格のバランス、噛み合わせの特徴などによって、最適な方法は一人ひとり異なります。
マウスピース矯正が難しいと告げられたとしても、それは“あなたに合う別の方法がある”ということでもあります。大切なのは、「どんな装置を使うか」よりも、“自分の歯並びや生活に合った治療を選ぶこと”です。
その一例として、Worldwide Orthodontic Brains(WOB)が推奨する「機能美アライナー®」があります。この方法は、見た目の歯並びだけでなく、噛み合わせの機能や口元のバランスまで考慮した設計を行うことで、従来のマウスピース矯正では難しいとされていた症例にも柔軟に対応できる可能性があります。
- 歯の動きを医学的な根拠に基づいて正確にコントロール
- 無理な移動を避け、歯や骨への負担を最小限に
- 装着感が自然で、日常生活になじみやすい
現在、機能美アライナー®の認定医院は全国で50か所以上に広がっています。お住まいの地域でも、同じ考え方のもとで治療を受けられる可能性があります。
もし、これまでに「マウスピース矯正は難しい」と言われたことがある方も、どうか諦めないでください。あなたの歯並びやお口の状態に合わせた最適な方法が、きっと見つかります。
